出産後の子宮は、妊娠・出産という大仕事を終え、元の状態へと戻っていく過程にあります。この過程は「子宮復古」と呼ばれ、驚くべきスピードと複雑なメカニズムによって進行します。
子宮復古のメカニズム
妊娠期間中、子宮は胎児の成長に合わせて大きく膨らみます。その大きさは、妊娠初期の鶏卵サイズから、臨月にはスイカほどにもなります。子宮筋層は、妊娠中にエストロゲンなどのホルモンの影響を受けて肥大・増殖し、子宮内腔の容積を約1,000倍にまで拡大させます。
出産後、胎児と胎盤が娩出されると、子宮は速やかに収縮を開始します。この収縮は、子宮筋層の細胞自体の縮小と、細胞数の減少によって起こります。子宮筋細胞は、妊娠中に蓄積したタンパク質を分解することで縮小し、一部の細胞はアポトーシス(プログラムされた細胞死)によって数を減らしていきます。
子宮復古の過程は、大きく3つの段階に分けられます。
- 第1段階(出産直後~数時間): 胎盤娩出後の強力な子宮収縮により、子宮壁の血管が圧迫され、出血が止まります。この段階では、子宮底はへその高さにあり、硬く収縮しています。
- 第2段階(産後1~2週間): 子宮は徐々に縮小し、子宮底は毎日1cmずつ下降していきます。子宮内膜は再生を始め、悪露の排出が続きます。
- 第3段階(産後6~8週間): 子宮はほぼ妊娠前の大きさに戻り、子宮内膜も完全に再生されます。悪露の量は減少し、色も薄くなります。
子宮復古を促す要因
子宮復古は、様々な要因によって促進されます。
- オキシトシン: 脳下垂体後葉から分泌されるホルモンで、子宮筋を収縮させる作用があります。授乳時に分泌が促進され、子宮復古を促します。
- プロスタグランジン: 子宮内膜から分泌される生理活性物質で、子宮筋を収縮させる作用があります。
- 母乳育児: 授乳によってオキシトシンが分泌され、子宮収縮が促進されます。
子宮復古に伴う症状
子宮復古に伴い、以下のような症状が現れることがあります。
- 後陣痛: 子宮が収縮する際に起こる痛みで、特に経産婦や双子以上の出産後に強く感じられます。授乳時に強くなる傾向があります。
- 悪露: 子宮内膜や胎盤などが剥がれ落ち、血液や分泌物などが混ざったものが排出されます。量は徐々に減り、色も赤→茶色→黄色と変化していきます。1ヶ月ほど続きます。
- 子宮脱: 子宮を支える組織が弱くなり、子宮が膣から出てきてしまう状態です。重症の場合は手術が必要になることもあります。
子宮復古をスムーズに進めるために
- 休息: 十分な睡眠をとり、体を休ませることが大切です。
- 母乳育児: 母乳育児は、オキシトシンの分泌を促し、子宮復古を促進する効果があります。
- 子宮マッサージ: 子宮の収縮を促すために、助産師や看護師から子宮マッサージを受けるようにしましょう。
- 骨盤ケア: 骨盤ベルトなどで骨盤をサポートすることで、子宮の位置を安定させ、子宮復古を促します。
- 排尿: 膀胱が充満すると子宮収縮が妨げられるため、こまめな排尿を心がけましょう。
- 便秘予防: 便秘になると子宮が圧迫され、子宮復古が妨げられることがあります。水分を十分に摂り、食物繊維を多く含む食品を摂取するなど、便秘予防に努めましょう。
注意すべきこと
- 子宮復古が遅れる、悪露の量が多い、悪露に異臭がある、発熱などの症状がある場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
- 産後1ヶ月は、子宮口が完全に閉じていないため、感染のリスクが高くなっています。入浴はシャワー浴にとどめ、性交渉は避けましょう。
まとめ
出産後の子宮は、子宮復古という過程を経て、元の状態へと戻っていきます。子宮復古は、女性の体が妊娠・出産から回復するために必要な生理現象です。子宮復古をスムーズに進めるために、休息を十分にとり、母乳育児を行い、骨盤ケアなどを心がけましょう。また、異常を感じたら、早めに医療機関を受診することが大切です。